somewhere sometime


10


釈然としない気持ちのまま、凌統はとりあえず手渡された服に着替える。
劉備のものではない、と聞いていたがそれにしては派手な色合いだ。
彼が手にするには違和感があった。

そんなことを考えながら、劉備のもとに戻ると。
テーブルには二人分の朝食が用意されていた。

「着替えてきたか?」
「あ…はい、ホントすんません…。」
「気にしなくてもいいさ。うん、少し派手かと思ったがよく似合っているな。」

さらりと褒められて、趣味の服ではないが悪い気はしなかった。

「そ、ですか?」
「ああ。
 さ、簡単なものですまないが朝食を用意した。食べていくといい。」

「…ホントに、世話になっちゃって…。」
「ははは、構わないと言っている。さあ遠慮はするな。」


「はい…。」

柔らかく微笑まれて、凌統は頬が熱くなるのを自覚した。


(…マジ、重症だっつの…。)


####

朝食は、凌統の口によくあった。
劉備と一緒だからかもしれないと一瞬想い、そんな思考を恥ずかしいと思いながら
穏やかで楽しいわずかな時間を過ごした。

しかし朝食を終えると、劉備はすぐに出かけていった。
当然仕事である。

「鍵はあとで閉めに来てくれる者がいるから、気にしないでいい。」
という劉備の残した言葉が気になったが。

とにもかくにもこれ以上彼に迷惑をかけようとは流石に思えず。
朝食の片付けを(置いておけばいいと言われたが)勝手にさせてもらい、
名残惜しくはあるが、凌統は劉備の家を出ようとした。


自分の着てきた寝間着は持ったし、
はいてきたらしい見覚えのあるサンダルをはいて
もう忘れ物はないかなと確認をして

早く出ようと、ドアを開けようとした。


その時。


ノブを握る一瞬前に、先にドアが開く。



「わっ!」

「?!誰だ!」


凌統は自分の驚いた声に、突き刺すような鋭い声が重なったのを聞いた。

次の瞬間、声と同様に鋭いものが喉元に突き出されたのを感じた。



ひやり、と空気が変わる。


殺気だ。



(何だっつの?!)


驚いたまま、相手の顔にやっとのことで意識を向ける。
そこに居たのは、薄い色素の髪に、全身で突き刺すような眼が印象的な、男。
身にまとっているのはスーツでなければ、戦士と言われても納得するような。


凌統が混乱していると、男のほうから殺気を薄れさせた。


「貴様か…劉備社長が昨晩拾ったとかいう男は。」

「え…、あ、アンタも劉備さんとこの…?」

「ああ。…貴様が来ているのは俺の服だからな。」

そう云いながら、男は凌統の喉元につきつけていたものを下す。
ナイフかと一瞬思ったが、それはボールペンだった。
喉元に突きつけられてはボールペンといえど命がなくなるかも…とも思ったが。
凌統は少なからず胸をなでおろした。


だが、また一瞬空気が冷えた。


視線をやると、男は冷たい目で凌統を見ていた。
その目は、先日劉備を迎えに来たあの男と同じ…。


(…何なんだ…?)


「…早く、帰るんだな。」



「あ…ああ。言われなくても…。
 服は、すぐ返すから…。」


「結構だ。」


男は取り付く島もなく、といった雰囲気で答え。


続けた。



「劉備殿に近づくな…。貴様にその資格はない。」



「…え…?」



「帰れ。」


「な…!」


ぐい、と有無を言わさぬ力で男は凌統の腕をつかむと、
そのまま外に文字通り放り出した。



バタン



無情とも感じる音で、凌統の目の前でドアは閉じられた。


わけが、わからない。


だが、凌統は確かに男の言葉にショックを受けていた。


『貴様に資格はない』



その言葉の意味を、自分は確かに知っている。
そんな気がして仕方がなかった。



                                  To be Continued…



久々に更新しましたー!!
えーと、凌統を追いだした男、誰だか…分かりますよね…v

さて、記憶を持っているもの、持っていないもの。
選別は私の勝手な好みです。

まだまだ人が出そうですね;大丈夫かな?


改めまして読んでくださった方、ありがとうございます!


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